作/高村薫
出版社/講談社文庫
ReviewWriteDate:2003/2/15
LastUpdate:2003/2/15
Story:
惚れたって言えよ―。美貌の殺し屋は言った。その名は李歐。平凡なアルバイト学生だった吉田一彰は、その日、運命に出会った。ともに二十二歳。しかし、二人が見た大陸の夢は遠く厳しく、十五年の月日が二つの魂をひきさいた。『わが手に拳銃を』を下敷にしてあらたに書き下ろす美しく壮大な青春の物語。
(「BOOK」データベースより)
ヒトコトReview:
--------------------------------------------------------------------------------
李歐というファンタジーに酔う
--------------------------------------------------------------------------------
ひさびさに「面白い!」と思って一気読みしてしまいました『李歐』。
実は書店店頭で気になって手に取っていたのが文庫化すぐぐらい。
その後古本屋で100円で入手し、しかし分厚い本なので面倒くさくて部屋に積んでいてさらに2年。
雪解け間近か? ようやっと積み上げられた本の中からひっぱり出され日の目を見たのですが、その後はもう一気に読んでしまいました。
この本は『わが手に拳銃を』を文庫化するにあたって大幅加筆してタイトルも変えた作品らしいのですが
背表紙にある文句がなんとも「気になる」って感じで、読んでみたいって思ったのでした。
実は高村薫ははじめてです。
当時はまだ中国語もやってなかったし、オリエンタルな雰囲気への憧れで中国物好きでしたが深くもなく。
今読んだからおもしろかった点というのも多々ありました。
■李歐という男
あらゆるレビュー、書評で語られているので今更わたしが書くこともないのですが、
李歐という男につきる、そんな話です。
しかし全編を通してこのタイトルロールが姿を現すのは正味数日間ぐらい。
他はほとんど一彰という日本人の視点となります。
お互いが二十二歳で思いがけず出会い、惹かれ、普通に考えれば二度と会うはずのないふたりが再会を約して別れ十五年が過ぎてゆく。
その十五年の間に一彰の中で李歐は心臓として生き、また逆も然りなんだろうと思わせる、なんとも言えぬ二人の関係の描き方がすごい。
恋なのか家族愛なのか、孤独な者同士の強烈な引力なのか。
そして何より李歐の言葉がいい。台詞の威力を感じます。読んでいてドキドキするんですもの。
実は李歐が美形美男と書かれている箇所も多少はあるものの、わたしは読んでいててんでビジュアルを想像しませんでした。
カタチとしての美醜よりも、存在感、生き方、台詞などの方がインパクトがある。ある時はスパイ、ある時は殺し屋、ある時はゲリラとなり、そして大富豪となる。名を変え場所を変え、存在を変えて転々とし、最後は桜の村を作って一彰を待つ李歐。
存在の方が、見た目より重いって感じで。
また台詞がいいんです。女子一堂へろへろになること間違いなし。
普段ハードボイルド系は全く読まない私ですが、キャラクターとストーリーに重きを置いたこの本はあっさりと世界に入り込めました。男の書くハードボイルドじゃないからかなー。
しかし言われないと高村薫が女性だとはわからない、男性っぽい文章ではあります。
■一彰という男
対する一彰を「平凡なアルバイト」と書いてしまうのは実は変で、自分の周囲の物を単に流れて消えてしまう、電車から見える風景のように見てしまうその感覚は、ちょっと現代的でありながら、やはりアウトロー。わたしの感覚に似ていると思います。
現代的──と表現したのは、実はこの小説の舞台とする年代が1970年~80代ぐらいだから。
最初それがはっきりと読みとれず、困惑しました。スタートの年が何年かよくわかんなくて。
中国の文化大革命が終わりそうになっている時期──て、いつ? みたいな。
え? オイルショック? みたいな。
つい友達と「いったい文化大革命は何年やってたんだ」と話しこんでしまいました。
現代史って、あんまちゃんと学校でやらないので、習った記憶がないのです。高校とかだと受験で使わない人は明治以後の勉強ってしないし。わたしは補講受けてやりましたが。
なんで、はっきりと文化大革命すげ~こえ~とおもったのが『さらば我が愛~覇王別姫』を観てからで、超いい加減な知識なのです。
時代は文化大革命や中国、アメリカの抗争、共産主義運動、ベルリンの壁の崩壊──と動いてゆき、そこに一彰の視点があって、という書き方がされている小説です。
一彰の最終的な職業が工場主で労働者階級そのもの(Notホワイトカラー)というところも、そういう時代を変にリアルに感じさせます。
この一彰という男もまた、つかみ所のない男で、数々の女が通り過ぎ彼に執着しても、本当の意味で相手には関わらない。いつも、考えるのは明日にしよう、みたいなところがあって、常に仮の住まい、仮の居場所にいるような浮遊感。でも女が絶えないところを見るとハンサムなんだろうっていう。
そんな一彰が唯一信じたいと思い、別れた年月を数える相手が李歐その人だというのも、うまいなあっていう感じ。
で、一彰も台詞がまたよいのだ。
ほれぼれしちゃうのだ。
「李歐、イ尓从此准成覇王的大陸ロ巴、我梦見随イ尓去(君は大陸の覇者になれ、ぼくは君についていく夢をみるから)」
とか。
うひゃあって感じです。
■全編に響く北京語の音
キャラクター、構成、すべてが面白い! て思ったのですが、同時に常に気になっていたのが
全編に散りばめられている北京語とその音。
漢字にカタカナがふってあるものもあれば、カタカナのみもあり。
効果的な場面で繰り返される「ピァオピァオリァンリァンア」などの音も、呪文のように耳に入り、心地よく『李歐』の世界に誘い出してくれる。
個人的な思いなのですが、中国語の、北京語の音ってすごくキレイで「ああ、このキレイな言葉を使いこなせるようになりたい!」としみじみ思うわけです。
で、「だったらちゃんと勉強せいやわたし!」て一人つっこみしてみたり。
アル化した音が方々に散りばめられ、北京や東北地方の空気満点です。
なんでも男のフランス語に女の中国語っていうらしいんだけど、セクシー度だかキレイ度だかが。
本文中では李歐の北京語が褒められまくっているので、是非わたしも李歐の声で絶句とか読んでほしーい!
笹倉のように居眠りできるだろうか。はたして。
■思いがけないラスト
正直、ラストは想像外のものでした。
読みながら、ラストに近づきながら「うー、絶対どっちか殺されちゃうに違いない」「再会なんてできなさそう」と戦々恐々としながら読んでいたのですが──、意外なラスト。
桜の花と、李歐の歌とで結ぶそのラストは、逆に切なく、ええもん読んだ~って感じ。
ある方も書いていましたが、『李歐』はファンタジーなんだと思います。ハードボイルドな仮面をかぶった。
櫻花(インファ YingHua)という音って、好きだなあ。
わたしの桜好きは『贋作・桜の森の満開の下』でも書いたように記憶しているのですが、もう1つ意味があったのか。というのも・・・
花、という意味はちょっと中国語で面白いのがあって『花完了』て言ったら「お金つかいすぎてすっからかん」みたいな感じで。いつも『花完了』なわたし・・・。
元の『わが手に拳銃を』も手に入れたので読んでみます。
しかし高村薫って必ず単行本を大幅改稿して文庫にしているらしく、中身違う別バージョン扱いでどっちも読まないとあからんらしい。嬉しいような、懐寒いような。
出版社/講談社文庫
ReviewWriteDate:2003/2/15
LastUpdate:2003/2/15
Story:
惚れたって言えよ―。美貌の殺し屋は言った。その名は李歐。平凡なアルバイト学生だった吉田一彰は、その日、運命に出会った。ともに二十二歳。しかし、二人が見た大陸の夢は遠く厳しく、十五年の月日が二つの魂をひきさいた。『わが手に拳銃を』を下敷にしてあらたに書き下ろす美しく壮大な青春の物語。
(「BOOK」データベースより)
ヒトコトReview:
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李歐というファンタジーに酔う
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ひさびさに「面白い!」と思って一気読みしてしまいました『李歐』。
実は書店店頭で気になって手に取っていたのが文庫化すぐぐらい。
その後古本屋で100円で入手し、しかし分厚い本なので面倒くさくて部屋に積んでいてさらに2年。
雪解け間近か? ようやっと積み上げられた本の中からひっぱり出され日の目を見たのですが、その後はもう一気に読んでしまいました。
この本は『わが手に拳銃を』を文庫化するにあたって大幅加筆してタイトルも変えた作品らしいのですが
背表紙にある文句がなんとも「気になる」って感じで、読んでみたいって思ったのでした。
実は高村薫ははじめてです。
当時はまだ中国語もやってなかったし、オリエンタルな雰囲気への憧れで中国物好きでしたが深くもなく。
今読んだからおもしろかった点というのも多々ありました。
■李歐という男
あらゆるレビュー、書評で語られているので今更わたしが書くこともないのですが、
李歐という男につきる、そんな話です。
しかし全編を通してこのタイトルロールが姿を現すのは正味数日間ぐらい。
他はほとんど一彰という日本人の視点となります。
お互いが二十二歳で思いがけず出会い、惹かれ、普通に考えれば二度と会うはずのないふたりが再会を約して別れ十五年が過ぎてゆく。
その十五年の間に一彰の中で李歐は心臓として生き、また逆も然りなんだろうと思わせる、なんとも言えぬ二人の関係の描き方がすごい。
恋なのか家族愛なのか、孤独な者同士の強烈な引力なのか。
そして何より李歐の言葉がいい。台詞の威力を感じます。読んでいてドキドキするんですもの。
実は李歐が美形美男と書かれている箇所も多少はあるものの、わたしは読んでいててんでビジュアルを想像しませんでした。
カタチとしての美醜よりも、存在感、生き方、台詞などの方がインパクトがある。ある時はスパイ、ある時は殺し屋、ある時はゲリラとなり、そして大富豪となる。名を変え場所を変え、存在を変えて転々とし、最後は桜の村を作って一彰を待つ李歐。
存在の方が、見た目より重いって感じで。
また台詞がいいんです。女子一堂へろへろになること間違いなし。
普段ハードボイルド系は全く読まない私ですが、キャラクターとストーリーに重きを置いたこの本はあっさりと世界に入り込めました。男の書くハードボイルドじゃないからかなー。
しかし言われないと高村薫が女性だとはわからない、男性っぽい文章ではあります。
■一彰という男
対する一彰を「平凡なアルバイト」と書いてしまうのは実は変で、自分の周囲の物を単に流れて消えてしまう、電車から見える風景のように見てしまうその感覚は、ちょっと現代的でありながら、やはりアウトロー。わたしの感覚に似ていると思います。
現代的──と表現したのは、実はこの小説の舞台とする年代が1970年~80代ぐらいだから。
最初それがはっきりと読みとれず、困惑しました。スタートの年が何年かよくわかんなくて。
中国の文化大革命が終わりそうになっている時期──て、いつ? みたいな。
え? オイルショック? みたいな。
つい友達と「いったい文化大革命は何年やってたんだ」と話しこんでしまいました。
現代史って、あんまちゃんと学校でやらないので、習った記憶がないのです。高校とかだと受験で使わない人は明治以後の勉強ってしないし。わたしは補講受けてやりましたが。
なんで、はっきりと文化大革命すげ~こえ~とおもったのが『さらば我が愛~覇王別姫』を観てからで、超いい加減な知識なのです。
時代は文化大革命や中国、アメリカの抗争、共産主義運動、ベルリンの壁の崩壊──と動いてゆき、そこに一彰の視点があって、という書き方がされている小説です。
一彰の最終的な職業が工場主で労働者階級そのもの(Notホワイトカラー)というところも、そういう時代を変にリアルに感じさせます。
この一彰という男もまた、つかみ所のない男で、数々の女が通り過ぎ彼に執着しても、本当の意味で相手には関わらない。いつも、考えるのは明日にしよう、みたいなところがあって、常に仮の住まい、仮の居場所にいるような浮遊感。でも女が絶えないところを見るとハンサムなんだろうっていう。
そんな一彰が唯一信じたいと思い、別れた年月を数える相手が李歐その人だというのも、うまいなあっていう感じ。
で、一彰も台詞がまたよいのだ。
ほれぼれしちゃうのだ。
「李歐、イ尓从此准成覇王的大陸ロ巴、我梦見随イ尓去(君は大陸の覇者になれ、ぼくは君についていく夢をみるから)」
とか。
うひゃあって感じです。
■全編に響く北京語の音
キャラクター、構成、すべてが面白い! て思ったのですが、同時に常に気になっていたのが
全編に散りばめられている北京語とその音。
漢字にカタカナがふってあるものもあれば、カタカナのみもあり。
効果的な場面で繰り返される「ピァオピァオリァンリァンア」などの音も、呪文のように耳に入り、心地よく『李歐』の世界に誘い出してくれる。
個人的な思いなのですが、中国語の、北京語の音ってすごくキレイで「ああ、このキレイな言葉を使いこなせるようになりたい!」としみじみ思うわけです。
で、「だったらちゃんと勉強せいやわたし!」て一人つっこみしてみたり。
アル化した音が方々に散りばめられ、北京や東北地方の空気満点です。
なんでも男のフランス語に女の中国語っていうらしいんだけど、セクシー度だかキレイ度だかが。
本文中では李歐の北京語が褒められまくっているので、是非わたしも李歐の声で絶句とか読んでほしーい!
笹倉のように居眠りできるだろうか。はたして。
■思いがけないラスト
正直、ラストは想像外のものでした。
読みながら、ラストに近づきながら「うー、絶対どっちか殺されちゃうに違いない」「再会なんてできなさそう」と戦々恐々としながら読んでいたのですが──、意外なラスト。
桜の花と、李歐の歌とで結ぶそのラストは、逆に切なく、ええもん読んだ~って感じ。
ある方も書いていましたが、『李歐』はファンタジーなんだと思います。ハードボイルドな仮面をかぶった。
櫻花(インファ YingHua)という音って、好きだなあ。
わたしの桜好きは『贋作・桜の森の満開の下』でも書いたように記憶しているのですが、もう1つ意味があったのか。というのも・・・
花、という意味はちょっと中国語で面白いのがあって『花完了』て言ったら「お金つかいすぎてすっからかん」みたいな感じで。いつも『花完了』なわたし・・・。
元の『わが手に拳銃を』も手に入れたので読んでみます。
しかし高村薫って必ず単行本を大幅改稿して文庫にしているらしく、中身違う別バージョン扱いでどっちも読まないとあからんらしい。嬉しいような、懐寒いような。
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