作/森茉莉
出版社/講談社文芸文庫
ReviewWriteDate:2000/12/3
LastUpdate:2000/12/3
Note:
明治の文豪、森鴎外の長女、小説家・森茉莉のエッセイ。
主に鴎外に関する思い出(結婚前の思い出)。
Story:
東京・駒込千駄木観潮楼。
森鴎外の長女として生まれた著者は、父追う街の愛を一身に受けて成長する。日常の中の小さな出来事を題材にして鴎外に携わる様々なこと、母のことなどを、半生の思い出を繊細鋭利な筆致で見事に記す回想記。「父の帽子」「『半日』」「明舟町の家」「父と私」「晩年の母」「夢」ほか十六篇収録。日本エッセイストクラブ賞受賞。
(カバー背表紙より)
ヒトコトReview:
--------------------------------------------------------------------------------
パッパ森鴎外の存在に満ちた人生
--------------------------------------------------------------------------------
■森鴎外と子供たち
実は、森茉莉の小説は読んだことがない。
名前は昔から知っているものの、耽美で流麗な小説世界は恐らくわたしには合わないだろうと思ってきたので。
(長野まゆみが好きといいつつ、実は装飾過多な文章が苦手なのだ)
今回森茉莉の、それもエッセイを読もうと思ったのは夏に行った津和野への旅でのこと。
ガラガラの森鴎外記念館にてじっくり見せてもらた森鴎外の生涯と
彼の送った子供たちへの手紙の展示に興味を持った。
自らを『パッパ』と名乗る明治の父。
全文カタカナで記されたその手紙は子供への愛情に満ちあふれていた。
子供が読むことを前提に書かれた大きな墨の文字、ユーモア溢れた文章。
前妻の産んだ兄・於菟(おと)は別としても、茉莉(まり)、弟・不律(ふりつ/フリッツ)、妹・杏奴(あんぬ)、弟・類(るい)、茉莉の息子・爵(ジャック)と鴎外の名づけた子供、孫の名前はいずれもドイツ名でもある。
ドイツかぶれした近代的な父、森鴎外の姿を垣間見たい。
そういう森茉莉ファンには申し訳ない理由での森茉莉初挑戦だったわけです。
■幼少期の世界
森茉莉の中で、幼少期の百日咳の思い出はその後の彼女に確実になんらかの意味をもたらしている。
五歳の折かかった百日咳は弟不律の幼い命を奪い、茉莉の命を奪おうとした。
これ以上子供を苦しめたくない、もう望みがないのならいっそ──という注射による安楽死の瀬戸際に(『注射』)、母方の祖父によって劇的に救われ、また奇跡的に病気から回復した逸話。
果たして当時こういった安楽死がポピュラーであったのかはわからないが、弟類は死に茉莉は助かったというその攻防(類は安楽死ではなく自然死だが)は幼い子供に深い何かを残したはずで、森茉莉の幼少期を考えるときに忘れられない一節になっている。
森茉莉の幼少期の思い出は『パッパ』森鴎外からの溺愛と悪妻と噂された母、自分を取り囲む大人たち、自然、料理、生と死。
それらが今ここで映像を見ているようにリアルに描かれる。
どうしてそんな幼い頃のことを鮮明に覚えていられるのだろう?
幼少の頃の食卓の描写は見事。
自ら「食いしん坊」であることを自負しているとはいえ、すごい記憶力である。
仮に残っているのが記憶ではなく『イメージ』だけだとしても、それをここまで具現化できてしまうのが森茉莉の文章のすごさだと思う。
記憶があるかないかではなく。
■詩のある父、詩を持たない夫
茉莉と父鴎外との関係は時として恋人のような精神関係である。
鴎外によって「おまりは上等」といって育てられた茉莉は
私は結婚をして幾らか経った時、夫に、言った。
《あたしはパッパとの想い出を綺麗な筐に入れて、鍵をかけて持っているわ》と。
と記している。(『刺』)
彼女は無意識のうちに、結婚し婚家に移ることがなにか不安に満ちた、今までの居場所ではないと感じている。父は詩を持っていた。だが夫にはそれがない。茉莉は夫に期待していない。茉莉にとっての恋人はこの時点では揺るぎ無く、父・鴎外なのである。
少し気になるのがもう一人の娘、杏奴の視点。
茉莉は決して大袈裟ではなくその愛を一身に受けて育ったという。
この親子とも恋人ともつかない関係がどう存在しえたのかを読んでみたいですね。
(杏奴氏も随筆家)
なにはともあれ、この『刺』はかなり痛い。
女性特有の痛さかもしれませんが、必読だと思います。
■耽美的文章世界?
恐れていた美文の嵐(笑)──は基本的にはありませんでした。
ただし漢字の使い方、その読み方等は大変凝っていて、長野まゆみチック。
そういう文章が好きな人にはたまらない媚薬のはず。
ただし『明舟町の家』で多用される『森茉莉的末尾表現』には少々辟易してしまいましたが。昔のわたしが好んで表現していそうな文末で。(笑)
『夢』は、思索の森に突入しすぎていて、小説として受け取ることができなかった。
モチーフは興味深いが、あの文章は──わたしには読めません。(ギブアップ宣言)
もっと短編に詰めてほしかった・・・。
出版社/講談社文芸文庫
ReviewWriteDate:2000/12/3
LastUpdate:2000/12/3
Note:
明治の文豪、森鴎外の長女、小説家・森茉莉のエッセイ。
主に鴎外に関する思い出(結婚前の思い出)。
Story:
東京・駒込千駄木観潮楼。
森鴎外の長女として生まれた著者は、父追う街の愛を一身に受けて成長する。日常の中の小さな出来事を題材にして鴎外に携わる様々なこと、母のことなどを、半生の思い出を繊細鋭利な筆致で見事に記す回想記。「父の帽子」「『半日』」「明舟町の家」「父と私」「晩年の母」「夢」ほか十六篇収録。日本エッセイストクラブ賞受賞。
(カバー背表紙より)
ヒトコトReview:
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パッパ森鴎外の存在に満ちた人生
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■森鴎外と子供たち
実は、森茉莉の小説は読んだことがない。
名前は昔から知っているものの、耽美で流麗な小説世界は恐らくわたしには合わないだろうと思ってきたので。
(長野まゆみが好きといいつつ、実は装飾過多な文章が苦手なのだ)
今回森茉莉の、それもエッセイを読もうと思ったのは夏に行った津和野への旅でのこと。
ガラガラの森鴎外記念館にてじっくり見せてもらた森鴎外の生涯と
彼の送った子供たちへの手紙の展示に興味を持った。
自らを『パッパ』と名乗る明治の父。
全文カタカナで記されたその手紙は子供への愛情に満ちあふれていた。
子供が読むことを前提に書かれた大きな墨の文字、ユーモア溢れた文章。
前妻の産んだ兄・於菟(おと)は別としても、茉莉(まり)、弟・不律(ふりつ/フリッツ)、妹・杏奴(あんぬ)、弟・類(るい)、茉莉の息子・爵(ジャック)と鴎外の名づけた子供、孫の名前はいずれもドイツ名でもある。
ドイツかぶれした近代的な父、森鴎外の姿を垣間見たい。
そういう森茉莉ファンには申し訳ない理由での森茉莉初挑戦だったわけです。
■幼少期の世界
森茉莉の中で、幼少期の百日咳の思い出はその後の彼女に確実になんらかの意味をもたらしている。
五歳の折かかった百日咳は弟不律の幼い命を奪い、茉莉の命を奪おうとした。
これ以上子供を苦しめたくない、もう望みがないのならいっそ──という注射による安楽死の瀬戸際に(『注射』)、母方の祖父によって劇的に救われ、また奇跡的に病気から回復した逸話。
果たして当時こういった安楽死がポピュラーであったのかはわからないが、弟類は死に茉莉は助かったというその攻防(類は安楽死ではなく自然死だが)は幼い子供に深い何かを残したはずで、森茉莉の幼少期を考えるときに忘れられない一節になっている。
森茉莉の幼少期の思い出は『パッパ』森鴎外からの溺愛と悪妻と噂された母、自分を取り囲む大人たち、自然、料理、生と死。
それらが今ここで映像を見ているようにリアルに描かれる。
どうしてそんな幼い頃のことを鮮明に覚えていられるのだろう?
幼少の頃の食卓の描写は見事。
自ら「食いしん坊」であることを自負しているとはいえ、すごい記憶力である。
仮に残っているのが記憶ではなく『イメージ』だけだとしても、それをここまで具現化できてしまうのが森茉莉の文章のすごさだと思う。
記憶があるかないかではなく。
■詩のある父、詩を持たない夫
茉莉と父鴎外との関係は時として恋人のような精神関係である。
鴎外によって「おまりは上等」といって育てられた茉莉は
私は結婚をして幾らか経った時、夫に、言った。
《あたしはパッパとの想い出を綺麗な筐に入れて、鍵をかけて持っているわ》と。
と記している。(『刺』)
彼女は無意識のうちに、結婚し婚家に移ることがなにか不安に満ちた、今までの居場所ではないと感じている。父は詩を持っていた。だが夫にはそれがない。茉莉は夫に期待していない。茉莉にとっての恋人はこの時点では揺るぎ無く、父・鴎外なのである。
少し気になるのがもう一人の娘、杏奴の視点。
茉莉は決して大袈裟ではなくその愛を一身に受けて育ったという。
この親子とも恋人ともつかない関係がどう存在しえたのかを読んでみたいですね。
(杏奴氏も随筆家)
なにはともあれ、この『刺』はかなり痛い。
女性特有の痛さかもしれませんが、必読だと思います。
■耽美的文章世界?
恐れていた美文の嵐(笑)──は基本的にはありませんでした。
ただし漢字の使い方、その読み方等は大変凝っていて、長野まゆみチック。
そういう文章が好きな人にはたまらない媚薬のはず。
ただし『明舟町の家』で多用される『森茉莉的末尾表現』には少々辟易してしまいましたが。昔のわたしが好んで表現していそうな文末で。(笑)
『夢』は、思索の森に突入しすぎていて、小説として受け取ることができなかった。
モチーフは興味深いが、あの文章は──わたしには読めません。(ギブアップ宣言)
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